イノアック初の工場併設型直営店舗オープンプロジェクト。

「カラーフォーム」は、1959年の誕生以来、60年以上にわたって多くのお客様に愛され続けている、イノアックのウレタンフォーム製寝具のオリジナルブランドだ。このカラーフォームの販売網をさらに強化することを目的に、イノアック初の試みとなるプロジェクトが立ち上がった。それが「工場併設型直営店舗」のオープン計画だった。
オープン予定日から遡ること約9ヶ月、寝具などの開発を行っていたリビング事業部の2名の社員が、プロジェクトメンバーに選出された。彼らに課されたミッションは、ショップの内装やレイアウト考案までも含めた開店準備と、目玉商品となる新しいマットレスの開発だ。
工場併設、メーカー直販という強みを活かして、一般的な市場価格よりお手頃な価格で商品を提供することはできる。しかしそれだけではなく、直営店の看板商品として、ウレタンのトップメーカーであるイノアックならではの独自性ある新しい製品を開発することが目標として掲げられていた。
「え!? 私たちがそんな重要なプロジェクトを担当するんですか…?」
オープンまでの時間が限られていたこともあり、2人の心には「自分たちだけでプロジェクトを完遂できるだろうか」という不安が湧き上がっていた。しかし、それ以上にやる気に満ちていたという。
「自分たちに任せてくれたという期待に応えたい。絶対にいい店をつくってやる!」
2人の挑戦が始まった。

日本人の平均睡眠時間は
世界でいちばん短い?

2人はさっそく新製品の開発に取り掛かった。まず着手したのは市場調査だ。常日頃から行っていることではあるが、あらためて最近の寝具の市場動向をリサーチした。近隣のホームセンターや家具店などに足を運び、売り場の雰囲気やお客様の様子なども観察した。
多角的な観点からマットレスの方向性を検討していたある日、ひとつの統計が2人の目にとまった。それは「日本人の平均睡眠時間は世界でいちばん短い」というデータだ。日本は世界一の睡眠負債大国であり、じつに日本人の7割が睡眠に悩みを抱えていると言われているのだ。
「勤勉で真面目な日本人の疲れを癒やすことのできるマットレスにしたい」
めざすべき方向性は定まった。ではどうすれば実現できるのか。2人は「寝返り」に注目した。人は一晩で20~30回寝返りを打つと言われているが、寝返りがしにくいと睡眠深度が浅くなり、疲れが取れにくくなってしまうのだ。寝返り性能はマットレスの反発性と密接に関係しており、寝返りしやすくするだけであれば、じつはそれほど難しいことではない。高反発にすれば体が沈み込まないため楽に寝返りできるのだ。しかし高反発すぎると硬い感触になり、やさしい寝心地ではなくなってしまう。低反発のマットレスだとやさしい寝心地にはなるが、体がマットレスに沈み込むため、寝返りするために余計な力が必要になり、体を動かすときに睡眠が浅くなってしまう。やさしい寝心地と寝返りのしやすさは、相反する特性なのだ。
「寝返りがしやすくて、そのうえ適度に体をホールドしてくれるやわらかさも兼ね備えた理想的なマットレスをめざそう」
この目標を達成するのはかなりの難題であることは確かだったが、不思議と不可能だとは考えなかったという。

「高反発×六角形スリット」
という画期的な組み合わせ。

さっそく、どんな素材・構造があり得るのか、これまでに培ってきた寝具開発の知識と経験を総動員しながら、分析・検証を実施した。
そしてたどり着いたのが「六角形スリット」構造だった。ウレタンに特殊な六角形の切れ込みを入れるのである。それにより、体の凸部がスリットに適度に沈んで包み込まれ、体圧が分散して安定した寝姿勢を保つことができるのだ。高反発か低反発かというウレタン素材の性質だけでなく、スリットという新しい要素が加わることで、また新たな特性、複雑で奥深い感触が実現できることがわかったのだ。
「六角形スリットをうまく使えば、今までと違うアプローチの製品がつくれるかもしれない。このスリットとの相乗効果がいちばん発揮されるウレタン素材を探そう」
極めて低反発のウレタンから、かなり高反発のウレタンまで、何十種類ものウレタンを組み合わせ、試作品をつくっては試し、つくっては試す日々が続いた。そんなある日、いつものように試作品を検証していた2人は、今までとは違う新鮮な感触を感じた。表層の感触は硬めで寝返りしやすいものの、沈むところはしっかりと沈みこんで、じんわりやさしく体に馴染んでいく。
「求めていたものは、まさにこれだ!」
これまでにない新しい感触をもたらしたその試作品は、高反発素材で低反発素材を挟んだ「高・低・高」の3層構造になっていた。特性の違う素材を層構造にして組み合わせること自体は珍しいわけではない。しかし3層構造の場合でも、普通は人体に接するいちばん上の層を低反発にし、その下の層に高反発を配置して「低・高・高」とするケースがほとんどだ。ところが今回の試作品は、いわば真逆の構造。これまでのセオリーで考えるとあり得ない組み合わせだが、高反発のウレタンに六角形スリットを加えることで、硬さとやわらかさ、すなわち、寝返りのしやすさと、絶妙に体を包み込んでくれるやさしいホールド感という、相反する特性を同時に実現することができたのである。
この新製品は、六角形スリットのデザインがガラスの切子細工のようにも見えることから、フランス語で切子細工を表す「ファセット」と名付けられた。
ファセットはほぼ完成したかのように思われたが、2人の探求はここで終わらなかった。
「体感的には申し分ないが、科学的な観点から分析するとどうなのだろうか?」
単純なウレタンの硬さ・反発力というものは「ニュートン」という単位で表すことができる。しかし、「寝返り」のしやすさを表すような指標はこれまでに存在していない。そこで、立命館大学の理工学部ロボティクス学科の先生と産学共同研究を行うことにした。そして「筋電位測定」によって寝返り時に使用する筋発揮力を調べ、「過度な筋力を使っていないか」を数値化した。さらに、寝返りごとの体勢のバラつき指標を「3Dモーションセンサー」によって測定し、「自然で安定した動作であるかどうか」を検証した。今まで科学的に分析できていなかった「寝返り性能」を見える化することに成功したのだ。
ファセットのこれらの実験結果は上々であった。多種多様な既存のマットレスと比較して、寝返り性能に大きな優位性があることがデータでも確認できたのである。
ここに、2人が思い描いていた理想的なマットレスが完成した。ファセットの「高反発×六角形スリット」という画期的な構造は、固定観念にとらわれず「何でも試してみよう」というチャレンジ精神で試行錯誤を繰り返した2人がたどり着いた、奇跡の組み合わせだったと言えるだろう。

ついに直営店舗がオープン!

目玉商品の開発には目処がついたが、2人の役割は新商品の開発だけではなかった。お店のオープン準備も担当していたため、ファセットの開発と並行してさまざまな段取りを進めていった。ファセット以外の商品も含め、どんな商品ラインナップでお店を展開していくかも決めなくてはならない。いくつかの商品は、必要に応じて直営店向けに改良を加えたりもした。
さらには、各商品の価格設定、ショップの内装やレイアウトの検討、商品に付けるタグのデザイン、カタログ・チラシ・ポスター・POPのデザインなど、大量の仕事を猛スピードでこなしていった。
「開発職なので、お店のオープン準備なんて経験がなく、わからないことだらけ。正直すごく大変でしたが、少しずつお店の形ができあがっていくのはワクワクしますし、大きなやりがいを感じていました」
そしてついに2021年4月、愛知県の「安城事業所」に、イノアック初の工場併設型直営店舗「カラーフォーム健康ショップ」がオープンした。オープンフェアには、予想をはるかに超えた多くのお客様にご来店いただき、たちまち完売品が続出するなど、大盛況だった。ファセットの評判もすばらしく、これまでどんなマットレスを使っても眠りづらかったという方から「ファセットを使ったらとてもよく眠れるようになった」という声をいただくなど、うれしい反応もたくさん届いている。 「これまでの努力が報われたと、みんなで喜び合いました」
安城での大成功を受け、現在イノアックの直営店舗「カラーフォーム健康ショップ」は、全国約10店舗で展開するまでに成長した。プロジェクトのメンバーも増え、抗菌性などの付加価値を加えたり、好みに合わせて硬さを選べるようにハードタイプをラインナップに追加するなど、バリエーションの拡充に取り組んでいる。
すべてはお客様に喜んでいただくため。今より一歩、そしてさらにもう一歩進んだ商品を提供できるよう、ファセットの改良開発はこれからも続いていく。

この人のココが

化けモノ

同僚から見た人物像

段取り力導き力スゴイ!

目的意識が明確で、優先すべきことをしっかり捉え、自分から率先して動いてくれる方です。また会議などではしっかりと自分の考えを主張しながらも、誰も嫌な気分にさせることなく場をまとめています。いつのまにか関係者全員を巻き込み、うまく導いているその手腕に、いつも脱帽しています。

Career Step

これまで

PAST

1年目

1年目から現在まで一貫して寝具の開発を担当。1〜3年目はOEM製品の改良開発を担当。

4年目

4年目から自社のオリジナル製品の開発担当に。これまでの経験を活かした開発に加え、イノアックらしさを意識したモノづくりに挑戦。

PRESENT

リビング事業部

これから

FUTURE

経営者としてのマインドを
持った開発者に。

直営店のオープンに携わった経験をもとに、自社ブランドの認知度を上げ、販売網の整備のい貢献したいです。そのために、ブランディングやマーケティングについて勉強を重ね、経営者マインドを醸成し、チームと協力して事業を進めたいと考えています。

ONとOFFで化けるけど、どちらもワタシ。 ONとOFFで化けるけど、どちらもワタシ。
みんなの得意分野を活かして
チームで戦う。

どんな仕事でも段取りを大切にすることを心がけています。自分だけでは達成が難しいことでも、チームみんなの得意分野を活かせば、大抵の困難は乗り越えられるはず。

ひとりで魚と戦うのもまた一興。

釣りが趣味で、よく休日に海釣りに行っています。仕掛けを工夫して魚を誘うのがマーケティングに似ていて楽しいです(笑)。近所の釣り堀でのんびり竿を垂らすことも。