イノアック×リハビリテーション天草病院
車いすクッションSwimo 対談
埼玉県越谷市で長い歴史と実績を持つリハビリテーション専門の「リハビリテーション天草病院」。作業療法士として勤務する杉本和哉先生は、患者さんのために手作りで車いす用クッションを試作、どこか製品化してくれるメーカーがないかと探していました。手を挙げたのが株式会社イノアックリビング。そこから杉本先生とイノアックリビング高井の、2年間にわたる二人三脚がスタートしました。
リハビリの専門家が発明した、立ち上がりやすい、
介護がしやすい自立支援型の車いすクッションです。
株式会社イノアックリビング 高井 幹夫
1987年 | 株式会社イノアックコーポレーション入社 スポーツ部門 イタリアからスキー用品を輸入販売。 |
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1996年 | ベビー用品事業室 もてもてくんブランド立ち上げ |
1999年 | イノアックリビング コンシューマー事業室立ち上げ |
2015年 | イノアックリビング 医療・介護事業統括 |
2016年 | 車いすクッションSwimo開発に従事 |
リハビリテーション天草病院 作業療法士 杉本 和哉
1984年 | 東京都養育院附属病院勤務時代に片麻痺の健側片手用爪切り自助具を考案 |
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1985年 | リハビリテーション天草病院に勤務 作業療法士として脳卒中のリハビリテーションに35年以上の経歴を持つ。 |
2016年 | ホームページで見つけた株式会社イノアックリビングとともに 車いすクッションSwimoを共同開発 |
車いすに座れない患者さんの力になりたい
杉本長年、脳卒中のリハビリテーションの世界で作業療法士をしてきました。開発のきっかけは、私がリハビリをお手伝いしている原田病院(埼玉県入間市)の理学療法士から「車いすで食事をさせたい患者さんがいる」という相談があったことです。
食事する時は前かがみになりますが、その方は脳卒中で左半身にマヒがあって、食事をしようと前かがみになると左に倒れてしまう。それをクッションで何とかできないか? とのお話でした。それで市販のポリエチレンフォームを取り寄せ、自分で切ってグラインダーで削って、接着剤で貼って、試作品を作りました。
ポイントの1つ目は、座った時の座骨のすぐ近い位置になめらかな高めの隆起部をつけたんです。こうすると大腿部に支えができて姿勢が崩れることなく食事ができるようになりました。
試しにイスに座って両手を太ももの下に入れてみてください。前かがみになりやすく、姿勢も安定します。これを形にしたものが手作りの試作品です。
高井初めて拝見した時に「これは良い!」と思いました。
杉本食事の他にも、車いすから立ち上がってトイレに移ったり、車いすに座って上着を脱いだり着たり、そうした時に姿勢を安定させてくれるような活動を支援するクッションにするつもりでした。
この製品に近いものを2個作りまして、1個は学会発表用ですね。昔からお付き合いのあるリハビリテーション病院のシーティングチームにお願いして、即時効果といいまして、座ってすぐ効果が出るかどうかを検証してもらいました。その病院の15名の患者さんに協力いただいて、体幹機能の向上に効果があることが確認できまして、学会で発表しました。
高井杉本先生のクッションは座っただけで正しいポジションに収まり、姿勢が安定して、立ち上がりもしやすいというのが大きな特長です。
杉本市販されている車いす用のクッションは、体圧分散性に優れた長時間座り続けられるためのものが多いのですが、リハビリに携わっている身としては、運動機能の回復や日常生活活動をサポートするようなクッションが欲しかった。それで、個々の患者さんに合わせてオーダーメイドでクッションを作り続けながら、骨盤を包み込むようなすり鉢形状と大腿部を支える隆起形状を組み合わせた現在の形にたどり着きました。
介護する側にとって立ち上がりが楽になることは大事なことで、トイレの移乗動作を手伝うのはとても大変なんです。大柄なご主人を小柄な奥さんが介助すると腰を痛めることが多い、それがラクになった「旦那の尻が軽くなった」と喜ばれる声は多いですね(笑)。
旦那の尻が軽くなる理由
高井なぜご主人のお尻が軽くなる? 立ち上がりがしやすくなるのか、不思議ですよね。
杉本車いすのシートは布地でできているので、人が座ると体重でたわむんです。真ん中に座ると水平なんですけど、左寄りに座ると左が、右寄りに座ると右が高くなってしまいます。脳卒中で片麻痺のある場合は真ん中に座ることが難しい場合があって、左の手足がマヒしている方ですと右の手足に頼るようになりますから、右側に寄って座ってしまうんです。
このクッションは、お尻が入るくぼみをすり鉢状にしています。だから右に寄っても左に寄っても座ると座骨が自然に真ん中に落ち着きます。これがポイントの2つ目です。
高井意識しなくてもちゃんと真ん中に座れるんですね。
杉本まず真ん中に座って姿勢を安定させて、先ほどのポイントの1つ目、座骨の近くの丘(隆起)が大腿骨の支点となって立ち上がりのしやすさにつながるんです。
先ほどお話した、イスに座って両手を太ももの下に入れたカタチは座骨に体重があまりかかりません。だからお尻が痛くならない。しかも体の重心が前に行った時に足への負担が少なくなります。手のひらではそんなに厚みがありませんが、高さを3cmくらいにするとちょうど太ももが丘(隆起)に乗り上げて体が前に倒れていくような感じで、自然に立ち上がれるんです。
介護する小柄な奥さんは、ご主人の腰を浮かせて上に引っ張り上げる必要が無くなるので、腰に負担がかかりにくくなるんです。
高井お尻から大腿部へ、シーソーのようにスイングモーションで重心が移動していくので立ち上がりやすい。Swimo(スイモ)というネーミングの由来はここからきています。
杉本患者さんに両膝の変形性膝関節症の方がいて、自分で立とうとしても膝が痛くて立てなかったんです。
試しにこの方にもSwimoに座っていただきました。「立てますか?」と声をかけたら、痛みもなく立ててしまったんです。
私も驚きましたが、本人が一番驚いていました。 Swimoの効果は、試してくれた患者さんからいろいろと教えていただいたようなものです。
早くSwimo の発売を心待ちにしている療法士仲間や患者さん達に届けてあげたいと思います。
ネットから始まった出会い
杉本1個作るのに1週間かかりますから、作り続けているうちに私は疲れ果てまして(笑)、これは市販を前提に企業さんに持ち込もうと、最初は車いすメーカーに話をしたんです。でもクッションは専門外だとのことで、インターネットでいろいろ検索して見つけたのがイノアックリビングさんでした。
高井インターネットからこんな社会的に意義のあるお仕事をいただけるとは思いませんでした。お問い合わせをいただいて、最初は別の営業マンが伺って、私は2回目におじゃましたのですが、杉本先生に惚れ込みました。リハビリテーション天草病院の理事長様もとてもご理解のある方で、企画から開発への話はスムーズでした。
杉本アイディアはあっても、それを商品化するとなるといろいろなプロセスを経る必要があるんですね。
高井ここまで2年くらいかかりましたね。製品化にあたって金型を作るんですが、これが一発勝負でした。先生に3Dのデザイン図面を本当に何回も見ていただいて、ようやくOKをいただきまして、金型を作る時は“もし失敗したら…”と冷や汗ものでした。
金型が完成したら、ウレタンの硬さをどこをどう調整するかで試行錯誤しました。イノアックグループは自動車のシートも製造していますので、そのノウハウがとても役に立ちました。
杉本お陰様で、私の試作品以上の良いものが出来上がりました。
一人でも多くの方にご満足いただきたい
高井いまSwimoはワンサイズです。おおむねだいたいの方にはフィットするよう設計しましたが、体の大きい方、小さな方は合わないかもしれません。そこで、Swimoの下にアジャスタークッションを敷いて対応する形をご提案しています。
大柄な方には座面の沈み込みを抑えて座り心地が窮屈にならないように、小柄な方には座面を深く沈み込ませてクッションが体を包み込むようにしています。
杉本この試供品も大変人気があって、原田病院では既に奪い合いになっています(笑)。
高井ようやく量産体制が整いました。先生のご希望だったコーティングタイプも実現できて、カバーリングタイプと2種類のラインアップです。
今いろいろな病院様を訪問していますが、「ぜひ使ってみたい」とのお声をたくさんいただいています。
杉本一人でも多くの患者さんにご満足いただき、一人でも多くの方の自立をお手伝いしたいですね。